小説

窓越しに(月森+土浦)
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今日も彼の音が聴こえてくる。



+++++窓越し

今日も彼の音が聴こえてくる。



+++++窓越しに





「暑いな…」

ため息が一つ、零れた。
俺は練習の手を休め、申し訳程度に開けていた窓を全開にした。
流れてきた風が心地よい。
季節は春もとうに終わりを告げ、空気は夏の始まりを知らせていた。

ここは防音の練習室。
もちろん空調設備は整っているのだが、それに頼るのにはまだ少々早い。

俺は外の空気を深く吸い込む。
幾分か気持ちが和らぐのを感じる。


耳を済ますと隣の部屋から心地よい音色が聴こえてきた。

ピアノ………土浦か。

顔を見なくても分かる。
この音は彼だ。

コンクールも終わったというのに放課後毎日のように練習室にいる。
いや、正確には“毎日いるようである”
俺は彼の姿を確認している訳ではないから。

不思議と…彼の音は他の音に紛れていてもすぐ見つけてしまう。
それは…
やはり彼が音楽的才能を持っているからだろう…。目立つ…と言うべきか。
しかし、何か釈然としない。
別の…他の何かに惹きつけられるような。

「………」

他の…何か…?

一体何があると言うのだろうか?




「――――月森?」

「―――!」

「なに、ボケっとしてんだ?」

「……あ、いや、考え事を、していただけだ」

驚いた…
気づけば隣の窓から、土浦が怪訝そうにこちらを見ていた。

「へーお前でもボーっと考え事することあるんだな」

「……悪いか?」
感に触る言い方をされて思わずこちらも眉を寄せる。

「いーや、ただお前の音がさ、……
あー、やっぱなんでもない」

「?なんだ」

俺の音が?

「………いや…急に聴こえて来なくなったから……ちょっと気になったんだよ、そんだけ」

「……!」

「じゃな、」

そう言い捨てると土浦は窓の奥に消えた。

「……」

土浦が…
いや土浦も、俺の音を気にしていた…?
それは勿論ライバルとして、だろう…でも…。

……沸々と湧き上がる感じたことのない感情。
この感情は…なんだ?

―――と、再びピアノの音が聴こえだした。

ショパンか…。
彼の得意な曲・・・

「・・・・」

なぜだろう、、、

泣きたくなる。

哀しい訳じゃない。

決して、嫌な感情でもないのに。

ただ…


胸が苦しかった。








end


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