TALES OF CRYING(旧版 ※現在更新停止中)
【宝珠編】
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第三十話 それぞれの想い

青い。
船の外の世界が全て青い。
空も海も。
船に乗っているのだから当たり前だが漁に出たこともなく、ましてや船に乗ったことすらほとんど無かったエッジにとってそれは違う世界に入り込んでしまったに等しかった。
その光景は自分が今まで生きてきた大陸を後にすることも示している。
エッジ(俺は・・・何をしようとしているんだろう?)
クロウという少女に出会って、村から二人で逃げ出してきたとき、自分は何も考えていなかった。
正確には、何をしようとしているのか自分でも分かっていなかった。
今だってはっきりした目標は何もない。

守りたい、クロウやアキに傷ついて欲しくない。

それだけを理由にして今までみんなと旅をしてきた。
だけどそこには『何故そうしたいのか』、『何の為なのか』、という決定的な理由が欠けている。
エッジ(・・・シントリアに着いたら、多分みんなとも別れなきゃいけないんだろうな)

そうしたら・・・俺はどうするんだろう。


 ――――――――――


アキ「・・・ふぅ」
三人と別れ一人になると、アキはゆっくりと息をはいて、水平線をぼんやりと見つめた。
船旅なんて、もうとっくに慣れてしまっていた。
船の外の景色にはアキの興味を引くものは何も無かった。
ただただ、孤独だけが心の中に渦を巻いている。
せめて・・・今だけは忘れていたかった。
自分のしてきたことも、これからしようとしていることも――

・・・。

できなかった。
考えないようにしようとすればするほど、エッジ達を騙している、裏切っているという罪悪感が頭を支配する。
アキ(今までの三年間、こんなことは無かったのに・・・)
自分のしていることに疑問すら抱かなかった。
――なのに今になって急に自分のしていることに自信が持てなくなった。
アキ(・・・どうして?)
分からない。
もう何も自分では分からない。
今のアキにはこの『仕事』を最後までやるしか選択肢が無かった。

迷っちゃいけない・・・私はもう戻れないから


 ――――――――――


世界が・・・揺れている。
クロウ(・・・最悪)
ひどい船酔いに悩まされていたクロウは、あまり人気のない場所を探し(他の乗客にも見つからないよう)、船の縁にもたれかかっていた。
クロウは船が嫌いだった。
正直に言えば、人間の乗り物ではないと思っている。
だからクロウにはこんなに揺れがひどく、同じ景色ばかりの物に乗りたがる人間の気が知れなかった。
とにかく早くこの悪夢が終わってくれるよう、クロウは祈った。



エッジ「こんな所にいたのか」
突然背後から声をかけられクロウは内心焦った。
が、そんな様子は表面に出さずにゆっくりと振り向く。
クロウ「・・・なんだ、エッジか」
声をかけてきたのがエッジだと分かると、また力が抜けた。
エッジ「なんだ、って・・・それより大丈夫か?」
クロウ「・・・何が」
エッジ「船、苦手なんだろ?」
クロウ「・・・別に」
そう言うと、去るつもりで無理矢理立ち上がる。
少しふらついた。
ちょうど同じタイミングで船がかすかに揺れ、クロウはバランスを崩す。
クロウ(・・・あ)
船の縁から落ちる。
そう思った。
その瞬間、腕と肩を誰かがつかんでクロウを支えた。
エッジ「・・大丈夫か?」
こいつはさっきと同じことをまた聞いてくる。
クロウ「大丈夫だって言ってるでしょ・・・」
エッジに支えられたままで言葉を返す。
エッジ「じゃあ、離しても平気か?」
クロウは無言で頷く。
エッジが慎重に手を離すと、クロウはまたふらっと倒れそうになった。
慌てて再びクロウの肩を支える。
どうやらクロウの船酔いは相当ひどいらしい。
エッジ「クロウ、無理するなよ」
仕方なくクロウを近くの壁に寄り掛からせ、座らせる。
その間クロウは何も言わず、特に抵抗もしなかった。
クロウ「・・・」
その態度にいつもの様な冷たい感じは無く、おとなしいクロウはまるで別人のようで何処か、はかなげだった。
エッジも特に話すことが無く無言で立っていたので、しばらく沈黙が続いた。
クロウ「・・・どうしてあなたは私に構うの?」
まるで独り言のようにクロウが漏らした一言が、沈黙を破った。
クロウ「・・・あなたは私の何なの?・・・どうせ私なんかと何の関係もないんだから放っておけばいいのに・・・」
エッジ「・・・」
何も言えなかった。
今のクロウには怒りや拒絶というより、何よりもあきらめの感情が最も強く現れている気がした。
それは普段の冷たいクロウ以上に心の距離を感じさせた。
エッジにはその距離をどうすれば縮められるのか、まるで分からなかった。


・・・みんないずれ私から離れていってしまうなら・・・初めからそばに誰もいないほうが楽だから


 ――――――――――


クリフは船の縁によりかかって、何をするでもなく船内の人の動きを眺めていた。
他の乗客が話したり、船員が忙しく働いていたりする様子を見ても暇つぶしにはならない。
昼寝でもしようかと思って座ってはみたが、なかなか眠れない。
クリフ(昨日、寝すぎたか・・・)
こうしてのんびり船に乗るのは何年ぶりだろう。
以前はよくあちこちに旅をするのに使ったが・・・
クリフ(今は・・・そんなことできる身分じゃないしな)
そう、自分にのんびりと旅をしている時間などない。
今もただ無意味に時間を過ごしているわけではない。
クリフはあるものを探していた。
エッジ達には何も言っていないが、もともと彼らに着いていくことにしたのもその為だ。
周囲の人間に警戒されないため、エッジ達を少し利用させてもらうことにした。
クリフ(・・・あいつらには悪いことをしたな)
それでもクリフは探さなければならなかった。
それが彼に残された全てだったから。


――もう少し待っていろ、フレア
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