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暗い森の中を一人の少女が走っている。
辺りは木はおろか地面さえ見えない位に暗い。
それは単に夜の闇の中の暗さではなく、木々の間から差し込むはずの月明かりさえ拒むような暗さだった。
にも関わらず彼女は木にもぶつからずに、走り続ける。
？？？「ハァ……ハァ」
長く走り続けていた為か少女の息は上がり、足元がふらついている。
いつ果てるとも分からぬ暗闇の中、不意に少女の目の前が明るく開けて森が終わり、急な崖が現れた。
森の終わりで速度を落としていなければ間違いなく落下していただろう。
しかし、少女の顔に疲労の色はあっても、今しがた死にかけたという焦りや追われている恐怖は微塵もなかった。
彼女の目の前には、青い海と夜空が広がっていた。
満月が彼女の紫の長髪に反射する。
――と、少女が何かに気付き、振り向く。
？？？「！」
突然、あたりが光に包まれ、それと同時に何かが砕ける音が響いた。
一拍遅れての轟音が辺りにとどろき光が消えると、崖も少女も消えていた。
崖が崩れた直後、森の中から小さい人影が走ってくる。
影「……」
人影は崖があった場所を見下ろすと無言で、再び森の中へ消えた。
いつの間にか森には月明かりが戻り、静寂が戻っていた。
――――――――――
小さな村の中で一番高い建物――自警団の詰め所の屋上で手摺りにもたれ掛かって、空を見上げている少年がいた。
髪はやや暗いオレンジ色、首に黄金色の石がついたペンダントを下げている。
少年の名は、エッジ。
この村の自警団に所属している。
今日は彼が夜回りの当番で村の周囲をまわって歩くことになっており、いつも夜回りの前はこうして屋上にいる。
特にやることはなくとも、漁村の他の男達と違い海に出ない彼は、夜風から海を身近に感じるこの時間を大切にしていた。
エッジは村の中でも多少浮いた存在だった。
両親がおらず、泳げない代わりに村の中ではあまり使い手がいない剣を学んで、いつも何かを探すようにどこか遠くを眺めている。
育ての親のボブと共に若いながらも自警団の一員として働くことで村の一員として認められてはいたが、彼自身自分を認められていない様でもあった。
そんな彼の意識が自然と村の外に向き、異変に村の誰より早く気が付いたのはごく自然なことかも知れなかった。
エッジ「……そろそろ行くか」
手摺りから離れ階段に向かおうとしたその時、いきなり強い光が辺りを一瞬明るくした。
それに、何かが崩れたような音が続く。
俺が咄嗟に音のした方を見ると、村から少し離れた岬が崩れたのが見えた。
エッジ（…何だ、今の？）
音自体は小さなものだったから、光を見ていなければ気にも止めなかったかもしれない。
少なくとも村に直接影響があるような自然災害では無さそうだ。
しかし、アクシズ=ワンド王国の端も端、立ち寄るものも少ないこの村で異変があること自体珍しい。
少し足早に階段を下り、この自警団の詰め所にいつもいる中年の太めの男性――ボブおじさんに声をかける。
エッジ「じゃあ、夜回りに行ってきます」
男性「ああ、そういえば今日はエッジ君が夜回りの日か、気を付けてな」
エッジ「はい」
軽く頷くと、おじさんに背を向け入り口の扉から外に出た。
扉を開けるとすかさず入り込む潮風が心地良かった。
しばし、それを楽しむと俺は再び岬の方へ目を向けた。
エッジ(調べに行ってみようか……)
――――――――――
ザザー……
俺は波の音を聞きながら、浜をさっきの岬に向かって歩いていた。
一歩踏み出すごとに、砂とブーツが擦れる音がして波の音と混ざる。
ザクッ、ザクッ、ザザーッ…
変わらずに規則正しく波と足音がリズムを刻み、その心地よさに心を奪われそうになる。
――と、不意に狩りや夜警の時に出くわすモンスターの気配に似たものを感じた。
足を止め、右手の森に目を走らせる。
エッジ「誰かいるのか？」
背負った長剣に手をかけ、警戒しながら声をかける。
声をかけてみると、木々の陰から紫の長髪の少女が姿を現わした。
この村では見ない服装をしている。
？？？「誰？」
見つけられたことに少し驚いた様子で少女が聞いてきた。
エッジ「俺か？俺はエッジ・アラゴニート、この近くの村で自警団に入ってる。それで……君は？」
クロウ「私の名前はクロウ……あの、村がどこだか教えてくれない？」
エッジ「こっちだよ」
歩きだそうとすると、少女に止められた。
クロウ「あの、場所だけ教えてもらえれば一人で行けるから……」
エッジ「この辺りは夜モンスターが出て危ない……一緒に行くよ」
少女はしばらく黙っていた。
クロウ「……じゃあ、村までお願い」
エッジ「ああ」
そう言って先に歩きだす。
クロウはしばらくエッジの背中を見ながら立っていた。
クロウ「……仕方ない、か」
が、軽くため息をついて、エッジの後を歩き始めた。
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