愛してると言ってくれ
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運命のケーキ(A)
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「あー、冴島さんいらっしゃい」


元ホームレス・街金社長・キャバクラオーナー・先物取引や株の売買と、金に愛されている且つ、様々な肩書を持つ秋山駿の少し間延びした声が響き、他の奴らも冴島の存在に気付く

冴島はそれらに適当に返しながら、秋山に両手を差し出した


「ほれ、言うとったケーキや」


「わー、ありがとうございます!
これで今日いくら飲んでも、明日花ちゃんに怒られずに済む〜」


さっそく事務所の冷蔵庫入れて来ます、と裏口から出て行った秋山の後を、カツンカツンという靴音が追いかける

どうやらミッション達成のようだ(何のだよ)


「それにしてもよ、まさか冴島に行きつけのケーキ屋があるなんて思いもしなかったぜ」


「…まぁ、な」


捜一の刑事に返り咲いた、元ブンヤで元マスターな伝説の刑事、伊達真にからかい気味に話しかけられても、冴島はどこか上の空だった


「しかも代金まで冴島さん持ちでしょ?
秋山さん甘やかしちゃダメっすよ〜」


その隣の席で飲んでいる“神室町のダニ”と呼ばれた元生活安全課刑事で、今は伊達と共に捜一の現場で日々調書と戦っている、谷村正義が言った


「ええねん今回は、こないだの飲みん時からの約束やからな」


どうやら前回の飲み会の時、酔い潰れた秋山に業を煮やし、雷を落としたらしい敏腕秘書の花ちゃんのご機嫌を、どうやって良くしておくかの会議が開かれたようだ

結果食い物で釣ってるだけだが


「…で?
今日も会えたんだろ?」


「…」


ニヤつく口元を正そうともしないこの男

かつて堂島の龍と恐れられ、親殺しの汚名を着せられながら、100億円事件、近江連合・ジングォン派との抗争事件、沖縄リゾート開発計画の利権を絡めた、外国組織からの会長襲撃事件など、幾多の危機から東条会を救った伝説の極道、桐生一馬


今更だが、ここに集まった仲間達を見回してみると、怱々たる面子が揃っていることを知る


「…もう会われへんわ」


「どうしたんだ?」


この中で唯一、冴島が何故そのケーキ屋に通っているかを知っている桐生が、訝しげに隣に座る

その顔には、好奇心より心配の色が見て取れた


「…泣かせてしもた」


「えー?
冴島さんってば泣かす相手いたんですか?」


いたんなら言って下さいよ〜と帰って来て早々言う秋山に呆れつつも、冴島はママが出してくれたウィスキーをあおった


「…何があったんだ?」


真面目に聞いてくる桐生に、こいつらになら話してもいいか、と弱った冴島は思った


「…それがようわからんねん。
今日ケーキ買いに行ったら、またいつもんようにアイツ奥に引っ込んどって、接客しとった店長がたまたまおらんようになったさかい、それを理由にこっち来るようにアイツ呼んだんや」


兄弟に「お前は女に対して、鈍感で無神経なとこがあるから気い付け」と言われ、言動には充分注意を払った筈だった


「…世間話しながら注文しとっんや。
けど、全種類なんてけったいなこと俺が言うからアイツ驚いてな。
何でこないに買うんか聞いてきたさかい、今日会う奴んところの事務の娘ぉがケーキ好きなんやって話したんや。
……そしたらアイツ、目に見えて泣きそうになった」


「…」


今思い返しても胸が痛む

アイツのあんな顔、見とおなかった


「…それって、もしかして俺が悪い?」


「そう、だな」


何故か秋山が顔色を悪くし、他三人とママは呆れ気味に冴島と秋山を見ていた


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