小説
雨露さんより相互記念幻ユニ!
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珍しい。


耳は良い方だと自負しているので今聞いた言葉は紛れもない事実だと分かっているが、それでもつい聞き返してしまう。


「オレとですか?」


そう言うと、彼女はいつもの笑顔を向ける。


「そうですよ。あなたと、です」






アジトにあれだけ大勢の人間が住んでいれば、食料や日用品をいくら保管していても限度がある。

その為ジッリョネロファミリーでは週に何回か守護者が複数の部下を連れて買い出しに行っていた。

今日はその買い出しの日ではないのだが、何故かユニが街に行きたいと言い出した。


しかも、よく一緒にいるγや太猿・野猿といった部下ではなく、幻騎士とだ。


(しかし何故オレと……)


自分の数歩先を歩く小さな背中を見ながら幻騎士は首を傾げた。
街に下りる機会などそうそうないのだから、どうせなら親しい人間を連れていけば良いだろうに。


客観的に考えても己は人付き合いが下手な方だ。

雑談も自分からすることも少なければ、団体行動よりも個人行動の方が何かと動きやすくて好ましい。

しかし流石に一ファミリーのボスと無言で街に行くのは気まずいだろう、と幻騎士は考えたが、だからと言って何か話題を持っている訳でもない。

特に話もせずに彼女の後を付いていったら、とうとう街に着いてしまった。


街に着いた頃には日が高く昇っていたので、市場は人で賑わっていた。

アジトないでは味わうことができない圧倒的な活気と熱気を感じ、ユニは眩しそうに目を細めて人の往来を見つめた。


やっぱり込んでいるわね、と独り言つ彼女の言葉に後押しされた形で、やっと幻騎士も口を開いた。


「ユニ様、何故急に街へ行こうなどと」

実に今更な質問だがユニはそこには触れず、

「何か甘いものでも作ろうと思って。幻騎士は食べたいものはありますか?」

いえ、特には…。と返しながら幻騎士はやはりおかしいと思った。


ユニは元々他人を気に掛ける少女だ。


ジェッソとの抗争で緊迫している中、そうほいほいと街へ出て自分の身だけでなく仲間も危険な目に合わせるような機会など、いつもなら作ろうとしない。

ましてやそれが『甘いものでも作ろうと思って』、といった個人的な考えだなんて。
作るなら作るでアジト内にあるものを上手く使うと思っていたのだが。


ユニはアップルパイを作ることにしたのか少しでも良いリンゴを選ぼうと目利きを始めた。

あれこれとリンゴを見比べる合間に隣に立ちながら彼女の意図を探ろうとしている幻騎士にも話し掛ける。


「ずっと屋敷にいると疲れてしまいますよね。やっぱり少しは気分転換しないと」

リンゴから顔を上げて、

「幻騎士もちゃんと休んでいますか?最近ピリピリしているように見えたんですが」


――なるほど。これが理由か。


ユニが直接言った訳ではないが、それでも幻騎士は今回の『お出かけ』が自分の為だったのだろうと見当を付けた。

普段あまり休みが取れていない部下に気分転換をさせよう。

ユニはそれだけで、特に他意はないはずだ。
なのに彼女の言葉にヒヤリとさせられたのは、やはり心当たりがあるからか。


間近に迫るスクアーロとの決闘―――その先に控えるジッリョネロを滅亡させる任務。


それは当然、隣のこの少女も手に掛けることも含んでいる訳で。


苦いものが込み上げてくる。

罪悪感から逃れたくて、幻騎士は「そこのリンゴはどうですか?」と振った。


「あ、本当だわ。これにします!おじさん、そこのリンゴ…えーっと…十個ください」

「はいよー。結構買うね嬢ちゃん。重いからお父さんに持ってもらいなよ」


店の主人の視線の先には幻騎士がいる。

代金を渡して商品を受け取ろうとするユニも主人の言葉に一瞬驚いた顔をして幻騎士を見た。

ぱちくりと瞬いた後クスリと笑い、やんわりと「父親ではありませんよ」、と訂正する。




「でも大切な『家族』の一人です」



他ならぬ貴女だけが罪悪感を感じさせる




End



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