1/2ページ目 わらったかお・ないたかお・こまったかお・はじらっているかお。 どれもわたくしにむけられたもの。 …だが、ひとつ…。 たったひとつだけ、むけられたことのないかんじょうがある。 いかり そう、つるぎはわたくしにたいしておこったことがない。 たけだのしのびにたいしては、よくそれはむけられる。 それがなんだかさみしような、それでいてくやしい…そんなきがしています。 あなたのすべてを、わたくしに 織田の脅威が去り、越後の上杉謙信は束の間の平和を謳歌していた。 その傍らには、常にかすがが付いていた。 戦が無くなり平和になっても、謙信はかすがを手放すことはなかった。 いつまた戦があるかも知れない、そんな理由も勿論ある。 それ以上に、謙信はかすがを気に入っている。 忍びとして優秀で、人望もあり、そして美しい。 これ以上の人材はそうは居ない。 かすがは、謙信に残って欲しいと言われた時半場泣きそうな顔で頷いた。 本来なら戦が終われば忍びなど手放すのが普通だった。 「もう要らない」 そう謙信に言われるのではないかと、かすがの心は落ち着く事が無かった。 上杉軍残留の要請を受けたかすがは、嬉しさで暫く眠れなかったという。 武田との関係も、今は友好の一途を辿っている。 元より険悪ではない上に、甲斐の武田に「暫くは休戦を」と持ちかけられお互いの行き来も頻繁に行われている。 そして、他の国の情報公開は互いの国の忍びの派遣を通して行われた。 甲斐の国からは猿飛佐助、越後からは勿論かすがだ。 お互い交互に行き来し、報告しては帰る。 それを繰り返している。 そして、今回は甲斐の国からの報告を受けていた。 「いい加減にしろ、猿飛佐助。おまえはいつもそうやって!!」 「はいはい、悪ぅござんした。っていうかさぁかすが、あまり怒っていると皺が増えるよ?」 「なっ!大きなお世話だ!!」 報告を終えると何事もなく帰るのが普通なのだが、この佐助はかすがにほのかな恋心を抱いているらしくよくかすがにちょっかいを出しては怒られている。 そして今日もまた、その口論は行われていた。 「報告が終わったのならとっとと甲斐に帰れ、佐助。本当ならばお前の顔など見たくもないのに!!」 「なにそれ、酷く無い?俺様、かすがに会うの楽しみにしてたのに」 「知るか、帰れ!!」 「お〜い、俺様今は敵じゃないよ」 かすがは佐助を睨みつけると、隠していたクナイを取り出し構える。 佐助はおどけた風に両手を上げ、ヘラヘラと笑って見せる。 それがかすがの敵愾心を煽ると分かっていても、佐助はそれを止めない。 「貴様、ふざけているのか!!」 クナイを投げて威嚇。 佐助はそれを難なく避けると、やれやれと首を振り困ったような表情を見せる。 勿論本当に困ってはいない。 ただ、そう見せているだけ。 「じゃぁ、俺様はこれで。次はかすがちゃんが甲斐に来る番だからね。楽しみにしてるよ」 「煩い!!とっとと去れ」 「はいはい、じゃあね」 かすがに畳み掛けられ、佐助は持っていた飛行忍具を使い暗くなり始めた空に消えて行った。 佐助の姿が見えなくなった頃、小さく溜息をついたかすがに謙信は小さく笑って見せた。 「まこと、なかがよいのですね」 「Σ謙信様!!」 謙信の言葉に、心外だと言った風にかすがは慌てた。 その口調は、佐助と行っていた口喧嘩のそれではない。 敬愛する主に向かって、そんな風に言う訳もない。 かすがの声を聞き、謙信はほんの少しだけ寂しそうな表情をした。 もっとも、小さな変化だったのでかすがは気付かなかった。 「なかがよいというのは、いいことですよ」 それでも、謙信はいつも通りにかすがに話しかける。 変化を悟らせない為だ。 今のかすがにはそんな事をしてなくても大丈夫なのだが、それでもいつも通りを装ったのは自分の中にある感情を自分自身で否定する為の物なのかもしれない。 「かれと、しゅうげんはあげないのですか?」 「挙げません!!!」 忍びあるまじき行為だと知りながらも、かすがは大声で否定した。 誰があんな奴と、そう小さく呟いた後かすがは真剣な顔で謙信を見つめる。 「私は謙信様の為のつるぎ。私のすべて、爪の一片、魂までも謙信様の物。他の誰かの物になりうる事などありません」 真摯な瞳で見つめてくるかすがに、謙信は少し嬉しそうなそれでいて悲しそうな複雑な視線を向けた。 そして、口から出た言葉は… 「ですが、さきほどのつるぎのいかり≠ヘわたくしのものではありません。それはかいのしのびにむけられた、かれだけのもの…ちがいますか?」 だった。 謙信のその言葉に驚き、かすがは息を止め押し黙った。 確かにそうだ。 全てと言うのなら、心・感情も謙信の物の筈。 だが、謙信に対し怒りを抱いた事などない。 「…すみません…すこし、いじわるをいいましたね」 俯きながらどう弁解すべきか考えていると、困った表情の謙信がそう言った。 そして小さく「わすれてください」と言われ、かすがは「…はい…」としか言えなくなってしまった。 かすがが謙信の寝室から去り、謙信は一人寝酒を嗜みながら先程の事を考えていた。 佐助に対し、嫌悪感を露わにする自らの忍び。 喧嘩するほど仲が良い、とはよく言われている。 あの二人は、その類いなのだろう。 だが、自分は口で何と言おうともそれを良しと出来ない。 そんな二人の姿を見るたび、黒い感情が心を満たす。 そこまで理解し、謙信は自分以外誰も居ない寝室で苦笑いをする。 (よもや、わたくしがここまでどくせんよくがつよいとは…) そして小さく溜息を付く。 目を閉じ、真っ先に浮かべる顔は勿論かすが。 感情が直ぐ揺らぐ彼女は、忍びには向かないと皆は言う。 それでも、自分は今のままのかすがで居て欲しい。 (つるぎのころころとかわるひょうじょうが、いとおしい。だから、かのじょのすべてをわたくしのものにしたい…。 みにくいしっとだと、りかいはしています。それでも、わたしはつるぎをてばなすことはできない) 彼女の感情の全て手に入れる事の出来ないのなら、未来を奪おう。 それが彼女にとって、他者の命を奪うと言う泥沼の生き方になったとしても… …わたくしは、貴女を手に入れたい… <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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