悠麻さんより謙かすフリー小説!1/2ﾍﾟｰｼﾞ目
謙信様はどんな美しい女性よりも、どんな美しい花よりもお美しい。
お顔を拝見しているだけで、かすがは幸せです。
「かすが、どうかしたのですか？」
ぽーっとしたまま謙信を見つめいていたかすがに気づいた謙信は、かすがに声を掛けた。
「いえ、何でもございません」
謙信様の美しさに見とれていた…なんて言えるわけがない。
かすがは申し訳なさそうに、頭を下げた。
「そうですか」
ぽつりと謙信は呟いた。
そして、俯くかすがの頬にそっと手を当てるとにっこりとほほ笑んだ。
「かすが、きょうはきねんびですね」
「き、記念日ですか？」
謙信に触れられているだけで、心臓が飛び出てしまうのではないかと思う。
それに、記念日とは一体…？
かすがには何の記念日かまったく検討がつかなかった。
首を捻るかすが。
「わからないのですか？」
謙信は意地悪そうに笑う。
「ふふ、わからなくてもよいのです。
そのかわり、こんやわたくしのためにじかんをあけてもらえますか？」
「は、はい。もちろんです！
何なりとご命じ下さい」
―――その夜。
かすがは、謙信の元を訪れた。
約束の時刻になるまでは、側に来てはいけない、と謙信から命じられていたからだ。
謙信の側を離れることは、心苦しかったが、謙信に命じられては仕方がない。
「謙信様、かすがでございます」
「なかへ、はいりなさい」
かすがは、自分の心臓の音がいつもよりも速くなっていることに気づいた。
結局、今日が何の記念日なのか分からなかった。
忍として大失態である。
かすがは謙信の部屋の中へ入る。
部屋の中で謙信は、いつものように微笑んでいた。
「謙信様…申し訳ございません。
今日が何の記念日か分りませんでした」
かすがは、素直に謝った。
どんなに考えても浮かんでこなかったのだ。
一瞬、佐助に相談しようかと思ったが、やめた。
きっと、馬鹿にされる。
「そうですか。それはざんねんですね」
謙信は、少しだけ寂しそうな声で呟いた。
そんな謙信の声を聞いて、かすがは自分の無能さに無性に腹が立った。
自分の未熟さゆえに、謙信様を困らせるなんて―――！
「も、申し訳ございません」
かすがは、頭を下げて謝ることしか出来なかった。
きっと、謙信様に呆れられる。
こんな無能な忍は不要だ、と切り捨てられるだろう。
だが、謙信の口から出た言葉は、かすがが覚悟していたものとは正反対のものであった。
「よいのです、かすが。
それでは、わたくしがおしえましょう。
きょうは、わたしくしとおまえがはじめてであったひですよ」
「ええっ？！」
予想外の答えにかすがは驚いた。
まさか、謙信が自分のことを考えてくれていたなんて、夢にも思っていなかった。
「これを…」
そっと、謙信は自分の背後に隠して置いていた花束をかすがに差し出した。
ぽーっとしているかすがの両手に花束を持たせる。
「わたくしのうつくしきつるぎ。
いつも、おまえのはたらきには、かんしゃしています」
「も、もったいなきお言葉…。
私は謙信様の剣。
如何なる時でも、ご自由にお使い下さいませ」
かすがは両手で花束を抱えたまま、謙信に頭を下げた。
甘い花の香りが、かすがの鼻をくすぐる。
花はもちろん良い香りがするが、謙信様からはもっといい香りがする…とかすがは思った。
「わたくしはかすがといっしょにいられるだけで、しあわせです」
そう言うと、謙信はかすがの両手から花束を奪い、そっと下に置くとそのままかすがを抱きしめた。
あまりの嬉しさにかすがは何も言えず、何もできずにそのまま固まっていた。
謙信は、さらに強くかすがを抱きしめると、そっとかすがの耳元で囁いた。
謙信の吐息を感じて、かすがは小さく声を上げた。
「あ…謙信様…」
「かすが、こんやはわたくしとともにやすんでくれますか？」
謙信様、な…なんと、おっしゃいましたか？
かすがは、嬉しいのを通り越してどうしたらよいのか分からなくなっていた。
共に休むって…つまり…。
「かすが、いやなのですか？」
何も答えないかすがに、謙信は意地悪な質問をぶつけた。
かすがが何を思っているのか、そんなことは謙信にはすべて分かっていた。
それでも、つい意地悪をしてしまう。
自分のことでこんなにも可愛い姿を見せてくれる、愛しい人が可愛くて可愛くて堪らない。
「い…嫌なはずがありません！
だって、かすがは謙信様だけをお慕い申し上げておりますゆえ…」
その続きの言葉は、謙信によって塞がれてしまった。
突然の口づけ。
かすがは言葉を発することすら出来なくなった。
とはいえ、もはやかすがには正常な判断ができる思考など残されていなかったが。
「わたくしも、おまえだけをあいしていますよ」
End
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